「KIRINJI弾き語りライブ-思えば遠くへ来ましたが-」ライブレポート
11月2日の「早稲田祭2024」にて、“KIRINJI弾き語りライブ-思えば遠くへ来ましたが-presented by WASEDA LINKS”が開催された。公演が行われたのは早稲田キャンパス15号館の401教室。ステージとして使用される教壇の後ろには大きな黒板が設置されており、来場者は長机と一体化した椅子に座る。いまにも講義が始まりそうな空間での演奏は、約600人の観客を惹き付けた。主催したのは、フリーペーパー・イベント・Webを用いて様々な情報を発信している公認学生団体の早稲田リンクス。同サークル主催の音楽イベントは、「早稲田祭2023」での“石崎ひゅーい弾き語りライブ『アンコールあのころ』presented by WASEDA LINKS”に続き、2年連続の開催となった。
拍手の中登場し、「堀込高樹です」と一言挨拶をすると、教室の中にKIRINJIがいる、という非日常に観客の興奮は高まる。「いきなり歌うと…ね」と言い、和んだ空気をつくると、「苦しいから」と笑いながら第一ボタンを外し、1曲目の『ネンネコ』の演奏を始めた。軽快かつしっとりとしたメロディーが、開幕を感じさせた。続いての『虹を創ろう』『まぶしがりや』では、時折聞こえる外の雨音が歌詞の魅力を引き立て、教室という無機質な場所が「弾き語りライブ会場」へと変化していくような印象を受けた。4曲目の『愛のCoda』で自在なアレンジを見せた後、MCを挟んで『fugitive』を披露。オリジナルの女性ボーカルとは異なるシックな雰囲気を味わうことができた。続く『一度きりの上映』では、アコースティックギターでの弾き語りならではの美しい演奏で、観客を魅了した。7曲目に披露したのは『Drifter』。力強さと繊細さを併せ持つ歌声で響かせた、「たとえ鬱が夜更けに目覚めて」のフレーズは格別だった。MCの後、『時間がない』『Rainy Runway』『非ゼロ和ゲーム』とKIRINJIの代表曲を息つく間もなく演奏した。手拍子が起こる場面もあり、会場の一体感が高まる。堀込が「次で最後の曲です」と言うと、観客からは惜しむような声が上がった。『Runner’s High』を披露し、盛り上がりが最高潮に達したまま本編は幕を閉じた。
退場するかと思われたが、「ふつうは一旦はけるんですけどね、今日はそういうのいいかなって…一応ここでアンコールっぽいのやってもいいですよ」と堀込が口にすると、会場は笑いに包まれた。本人を目の前にアンコールの手拍子が起こると、堀込は「ありがとうございます…戻りました!」と息切れしているふりをしながら再登場の演技をし、再び拍手と笑いが起こった。 アンコールでは『絶交』と『進水式』という、新たな出発を感じさせる2曲を披露。「次はぜひバンドで…」と言いながら、今回の公演は終了した。
合間に挟まるMCでは、母校での公演ならではのエピソードをユーモアを交えつつ話してくれた。早稲田の第二文学部(現在の文化構想学部)出身であり、ほかに合格していた大学もあったが早稲田の特別感に惹かれて入学したが、周りには「なんで二文なんか行くんだ、バカじゃないの」と言われたと笑いながら話した。また、就職活動に気が乗らず5年間在学していたことを明かし、「親は大卒じゃなかったから、なんかもう1年通うんだよねーと言ったらあらそうなのーという感じだった」と場を和ませた。
1年だけバンドサークルに入っていたがほとんど飲み会しか行っておらず、早稲田祭に出演するのは初めてだそう。当時はピチカート・ファイヴや東京スカパラダイスオーケストラのライブを観に行っていたと語った。今回のイベントに付随して行ったロケ企画のことにも触れ、「事前アンケートを書くときに、20年くらい前かなあと思い返してみたらもう入学したの37年前なんですよね。あれ、おれジジイじゃん?!って」と話し、会場は笑いに包まれた。当時の建物や古本屋も残っていなかったため、逆に学生のおすすめの店を回ったと明かし、団体員に「おすすめのワセメシは?」と尋ねられたが、自身の在学中は「ワセメシ」という言葉もなかったと語った。また、「初めての人はギター高くね?と思うかもしれませんが、“視野見”できるギリギリがここなんです」と笑いを誘い、演奏後には毎回曲名を口にするなど初めてKIRINJIのライブを訪れた人を意識したMCもみられた。MCの最中には名曲のコードを弾き、いつの間にか演奏に入る形をとっており、語っている最中も歌を聴いているかのような心地よさがあった。
大学時代の堀込と現在の堀込の繋がりに思いをはせ、「思えば遠くへ来ましたが」というタイトルを感じることのできる公演となった。早稲田大学に入学してからこれまでの37年と、これからの37年は、数字としては同じでも全く違うものになるだろう。堀込高樹がKIRINJIとして活動するかぎり、KIRINJIはKIRINJIであり続けると同時に変化を続ける。今後も、そんなKIRINJIに期待したい。
※敬称略
企画者あとがき
私がこの企画に堀込さんにご出演いただきたいと思った理由は、堀込さんの奏でる音楽を多くの人と共有し、せわしない生活の中で一度立ち止まってみる契機を作りたいと考えたからです。
私は高校生の時、すこしの想像で世界のすべてを経験したような気になって、倦んでしまっていました。自分の志望する大学に合格すれば自身の人生に責任が取れて、自分のすべてを肯定できるようになるのだと考えていました。しかし、実際大学に入学してみると、就活を意識している人が周りにたくさんいて、目的だったものがすぐに手段になることに驚き、不安になりました。
私は倦んでしまっていた高校生の時、不安に駆られていた入学したての時、いつもキリンジ/KIRINJIを聴いていました。キリンジ/KIRINJIの音楽は心の揺れに寄り添ってくれるのにもかかわらず、押し付けがましくなく、「赦し」を感じるからです。生き急いでいる大学生がキリンジ/KIRINJIの音楽を通して何百人もの人と時間を共有することで、音楽の本質、はたまた生活の一番大事な部分に立ち戻るきっかけになれば良いなと思い、このイベントを企画しました。大学生だけでなく、このイベントに来てくださった方々が、ご自身のほんとうに好きなものを純粋に楽しんでいただけていたら幸いです。
KIRINJI
1996年、実兄弟である堀込高樹、堀込泰行の二人で「キリンジ」を結成。1998年メジャーデビュー。2013年堀込泰行がキリンジを脱退。同年に新メンバーを迎え6人編成バンド「KIRINJI」として再始動。2021年からは堀込高樹のソロプロジェクトとして活動中。2023年9月6日に、新レーベル「syncokin」より第一弾アルバム「Steppin’ Out」をリリース。自身の作品のリリースやライブ活動のほか、様々なアーティストへの楽曲提供やドラマ・映画のBGM、テーマソング制作など、活動は多岐にわたる。音楽への深い造詣に裏打ちされたジャンルにとらわれない曲作り、アップデートし続けるサウンドプロダクション、ユニークな視点から繰り出される詞世界は、音楽ファンのみならず多くのミュージシャンや著名人からも支持を得続けている。
ロケ動画は、総集編または「思えば遠くへ来ましたが」特設Xからご覧ください。